サン・クガット・コーポラティブの建築学的分析

 

    

 

セザール・マルティネイのコーポラティブ建築様式としては、ワインのカテドラルとしてカタルーニャ地方に40を超えるものが1920年前後に建設された。そのほとんどがカタルーニャの野石やレンガを積み上げた土着的な建築で、時代的にはモデルニスモ後の、「ノウセンチスモ」に属する。ノウセンチスモとは直訳すると900年主義で、いわゆる19世紀末主義に対する「1900年の新世紀主義」とでも訳した方が分り易い。

当時北欧、中央ヨーロッパに起こり、すぐにイタリアのフィレンツェモデルとしてバルセロナ入ってきたらしい。最初は文学から始まりすぐに、芸術、建築の分野にも広がっていった芸術運動である。余りにも表面的な装飾的と成り下がった後期モデルニスモの、反合理主義、自己中心的風潮の反動として起こった芸術運動と言えよう。ガウディの建築は、時代的にはモデルニスモに属するが、深い建築学的考察の末に出てきた合理的な形態(フォルム)なので、いわゆる表面的に装飾的な曲線を多用したアール・ヌーボー建築様式とは異なる。マルティネイは、師ガウディのゴシック建築合理主義的精神の志を継いで、彼独自の建築様式を創ろうとしていたと考えられる。

マルティネイの数あるコーポラティブ建築のうちで、柱、屋根のレンガ建築構造にガウディのパラボラ曲線を取り入れたものは、意外な事にも少ない事が解った。ほとんどのものが昔ながらの工法であり、壁はレンガや石を積み上げ、屋根は木の梁を渡した瓦の勾配屋根と言う、この地方の通常の工法で作られている。ファサードもシンメトリーに古典的に整えられており、カタルーニャの土着的建築と呼ぶに相応しいものである。

Pinel de Brai Coop.

Gandesa Coop.

 

El Pinel de BraiGandesaのコーポラティブ建築が彼の代表作であるが、これに、Sant CugatConca de Barbaraを加えた4つの建築だけがガウディの建築様式の延長上にあると考える事ができる。

その中でも、屋根までレンガボールトで出来ているものは、GandesaSant Cugat2つだけで、両者の建築構造は酷似している。規模、建築の完成度からいうとGandesaが一番の代表作であるが、パラボラ曲線で出来た最も完成度の高いレンガボールトは、意外にも私の住む街にあるSant Cugatのコーポラティブである事が解ってきた。

   

マルティネイによるGandesa Coop.
アーチボールト構造のスタディ

マルティネイによるアーチボールとの立面図

 


 

Gandesa Coop.のアーチボールト

 

 

この建物の壁と柱は、寸法140290、厚さ40のレンガ(Ladrillo Catalan)だけを用いて作られており、天井屋根は厚さ2cmの薄いレンガで作られている。アルバニル(Albanil)と呼ばれる石工の親方がそのレンガを積み上げて行く為、建設工事は効率よく、材料も単一で安価なのでコストも抑えられる。また屋根までレンガを使いボールト屋根にするという、ロマネスク以来の伝統的建築工法(ガウディの曲線を生み出すカタルーニャ・ボールト)で、最小限の建築材料で、最大限の建築空間を生み出す事が出来る。この様にセザール・マルティネイのコーポラティブ建築は、師ガウディから学んだ鋭い感性による穏やかで建設的なカタルーニャ独自の合理性に基づいた建築工法により、生み出されてきたのである。

建築空間主構造は、幅、高さ約8mで、8本のカテナリー曲線のアーチ柱によって成立っている。

 

Sant Cugat Coop. 内部

 

アーチ柱間の一番高い部分に於ける屋根部位は、厚さ2cmの薄いレンガでボヘミアン・ボールトを作っており、7つのクープラ屋根が連続してうねっている。一段屋根を低くした壁の部分には、4つのパラボラ曲線の窓が開けられ、明り取りとなっている。一段低い屋根の部分は、やはり厚さ2cmの薄いレンガを3層に重ねた水平平行ボールトを作っており、アーチが7つ連続した構造になっている。ボールトの柱間には、フィレンツェのルネサンス建築家ブルネスキが発明したとされる引っ張りの丸鋼が通っている。さらに一段低くなっている水平平行ボールト部分の梁部位は1332cmのI字鋼が使われ、両側から高さ13cmのレンガが2段ずつ積まれている。近代産業革命以降生産された、新建築材料、鉄を合理的に使っている。ガウディもレンガ、モルタルの補強部材として鉄を使用しているが、このように、レンガ建築でI字鋼を鉄梁として構造的に使っているのは、マルティネイが最初ではないかと思われる。建築学的デザインと建築工法の合理性を、常にフィードバックさせながら考えてきたマルティネイならではの、素晴らしい建築学的解決方法であると言えよう。

  だが、何故40のコーポラティボ建築のうちで、柱、屋根のレンガ建築構造にガウディのパラボラ曲線を使ったものは4つしかないのか。次回はその謎の解明に迫る。

 

 

 
 

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